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クレア様、お食事を
クレア様、お着替えを
クレア様、ご診察を
クレア様、伯爵のお手紙のお返事を
クレア様、クレア様
耳障りな音がする。声とも言えない、まるで烏が囀るようだ。
ああ煩い五月蝿い。
そんな事は言わないけれど。
少し休ませてもらえる??独りになりたいの。
鬱々とした日々が過ぎた。それでも仕事はこなして、やるべき事はやって、虚脱感に襲われながらさらに日々が過ぎた頃に登城しろとの御達し。
ふと我に返った気分だ。これまで確かに生活していた筈なのに急に世界が現実感を帯びて、脳内で急激に、鮮明に、映像が広がるようだった。
パノラマの世界が視界に「認識」され無自覚なまま宙に浮いていた足が地についたのを、ここで初めて実感する。
彼に捉われる自分をやっと認めて、沼に捉われて抜け出せない錯覚を覚える。こんなに断ち切った気で居るのに、自分の生活に彼がもう食い込み過ぎている。愛しているだとか、そんなものではない。
彼が居なければ何かを話す相手が居ない。
彼が居なければいそいそと何かを作る事もない。
彼が居なければ彼の仕事の補佐がない。
彼が居なければ、己を磨く事も、己に目標ができることもない。
幼い頃から、国王の為だけに有ることを教育され、義務付けられ、そして自分もそれを望んだ。
男が居なければ、何も出来ない女。
今まさに、そんな状況。
それでも国を維持する為に働かされる事を、何故今まで疑問に
思わなかったのだろう。
現実感を帯びた世界は、やっとクレアに目覚めを齎した。
彼の事が好きなのか、最早分からない。愛しているのかさえ、曖昧だ。
生活に食い込みすぎて離れられない。
これは果たして、恋と言えるのだろうか──。
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