イラスト

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黒馬の蹄鉄がカッカッと地面を踏む。馬上に2人の人間を乗せた黒馬が進む目的地は、則ち手綱を握る人間の目的地だ。 いつもよりも幾分か重い背中の重量感を感じつつも、その強い脚は軽快に地面を踏む。 急く様子の見られない主人だが、緩やかな行程ではなく速足の指示を出していることを鑑みれば、その心中は穏やかではないのかもしれない。 黒馬は、昔自分の世話を甲斐甲斐しくしてくれた娘と、主と認めた主人が背中に居る事を誇って時折荒い鼻息を鳴らしながら、前を見据えて使命感と共に歩を進める。 散々主人に急かされた行き道の疲労感も、主人の捜し人が連れてきた、小さな白い鳥が鼻先へ唇を落とした瞬間癒された。 もはや娘と呼ぶには相応しくない程成長した彼女は、一体何処へ行っていたのだろう。 緊迫感に溢れる主人が彼女を迎えに行く時、あれ程に急かされたのだから、良くない場所に居たのだと思っていたのに、彼女には傷一つない。服は破れているし、随分と痩せてはいるが、時折人型に近くなって小さな身体で耳にじゃれつく白い鳥のお陰か、不健康には見えない。 彼女の淡い月色の愛馬が心配していたような元気のない様子ではないし、自分の主人は何をそんなに慌てていたのかが黒馬にはよくわからなかった。
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