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分からなくとも、今の自分の使命はこの2人を目的地まで運ぶことだ。
使命感に身を震わせた黒馬の思考を読んだかのように、馬上から励ますように伸びる手があった。
「ザイ、ごめんなさいね。重いでしょう」
首をポンポンと優しく励まされて、黒馬はそんな事はないと首を上下に振った。
歩みの揺るがない脚に彼女はホッとした様子を見せて、黒馬の鬣を見ていた視線は、馬上ではずっと向けられる事のなかった背後へと向けられた。
「陛下、御手を煩わせ申し訳ございませんでした。どんな罰でも、お受けいたします。」
主人は硬くなったように、胴を挟む脚にグッと力が入った。何時もならばより早く前へ進めという合図だが、何となく違う気がして黒馬は不満気に頭を小さく振って不服を僅かばかり示す。
主人はその様子に溜めていたのだろう息を吐き出して体の力を抜くと、その吐き出した息と共に心中に溜まっていたものも吐き出した。
「情状酌量の余地があるかどうかは宰相の意見を中心に決定を下す。
申し開きならば宰相にせよ。
それよりも留守の間に積量した書類に忙殺されぬよう、心構えをしておけ」
平坦な声で言い放った主人の言葉に、傷付いた様子もなくただ申し訳ありませんと言って彼女は頭を下げた。
前に向き直った彼女は、罪悪感は感じていても後悔はしていないのだろう。鬣を時折さわりと撫でながら、目的地への到着を静かに待っていた。
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