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王の執務室で溜まり始めた書類の整理をしている宰相とは、何とも滑稽な姿だと思う。
政務官の仕事である筈なのだが、王は身近に人を置くことを好まない。それ故に定時になると執務官が別室よりやってきて、整理した書類を渡し、債務や王印の決裁の済んだものを受け取り去って行く。
普段はそうやって進んでいる政務ではあるが、王が自ら飛び出して行ってからは王の不在をあまり主張しない為に、部屋の前で宰相自らが政務官より書類を受け取って部屋に運んでは整理をしている訳だ。
まぁ、あれだけ派手に飛び出せば周知はしていると思うけど……
周知の事実であるのに宰相が隠匿しようとする動きは、暗にこれは他言無用であり騒ぎ立ては望外のものである事を示している。
その圧力に従順に圧迫された王宮のものたちは、表面上は日々の業務に従事し、口さがの無い者は仕事を片手間に噂話に華を咲かせる。
何も城の従事者達だけではない。元王妃が突然行方をくらませる。様々な憶測を呼び、貴族達はどの勢力も浮き足立った。
戦争が落ち着き、陛下が戴冠してより10年。その足元は盤石とは言い難い。
戦争の功績と褒賞に浮かれていた者は現実的になり、元より不満のある者は突けば割れる風船の様に欲を膨らませている。
つまりは皆暇を持て余し、停滞している財政や流通の平坦さにうんざりとし始めた頃。
戦争という最も注目すべき対象が落ち着き、新たな種を誰かが撒き育つのを今か今かと首を長くして待っているのだ。
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