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陛下にクレア様――……
宰相様と少し話をして、すぐにお帰りになったわ
宰相様すごいなぁ
どこかふわふわとした心地で先程のやり取りを思い出す。
クレア様は陛下を愛してた……
私、クレア様になんてことを……
罪悪感と、一人の人物を取り合いそれに打ち勝ったという優越感とが綯交ぜになる。
何時どんな時も穏やかで、それでいて凛とした美しさのあった女性だった。この国の人間なら、誰だって憧れた。
国教であるプーカル教。
その主神である女神クリューネアの再来と謳われた美貌と、そして奇跡を授かった人。
その奇跡をインチキだという人もいるし、確かに演出としてそういう事も出来るかもしれないと言った程度のものだと言えなくもない。
でも、あの光はきっと本物よ
一度だけ見たことがあった。
大衆にプーカル教の聖典内容を演説する、年に一度の生誕祭で彼女は不思議な光を降らせた。
ただ綺麗で柔らかくて、一緒に行った弟達は大はしゃぎしていた。
弟達に気を取られていたけど、皆が口々に言う奇跡の正体は不思議と耳に入ってきた。
何でも自身の意思で、光を天から降らせることができるのだとか。
その光は影がなく無辺で、柔らかいのだという。女神クリューネアは光の神でもあり、その働きを女神の寵愛で顕現させているのだと聞いた。
美貌、地位、内面、神までもが彼女の味方で、この国で彼女に憧れない者などいない。
勿論、私だって。
そんな彼女が手に入れられなかったもの。
いや、手に入っていたのに零れ落ちてしまったもの。
それは自然と零れ落ちたのではなく、奪われてしまったのだ。
羨望と僅かにあった無自覚の嫉妬を持った女によって。
何てことを……
事の重大さに愕然として、窓から見えている二人の出迎えに行くことができない。
恐ろしい。
最愛を奪ってしまったこと。
誰もが憧れる彼女の前に立つこと。
陛下に、要らないと言われること。
自分の立っている場所が、崩れ落ちる予感がする。
足の裏が不安定になっていく。
ギュッと守るように、留めるように両腕で自身を抱きしめても何も変わらない。
抱きしめてほしい。
心配ないと、今までそうだったよにあの逞しさに預けてしまいたい。
陛下――……
心細さに震えながら、王妃は窓の外を見下ろしていた。
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