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毎日毎日よく忙殺されないものだと感動すら思える領域の、うず高く積まれた書類に目頭を押さえる。何もその書類は自分のものではないのだが、この量を片付けるとなるとその人物が気の毒になる。
そこまで考えて、宰相は目の前で眉間に皺を刻みながらガリガリと音を立てて直筆署名をしていく国王をチラリと見遣った。
ご機嫌は麗しくないようだ……
あまりにも不機嫌が表情に露わな国王は、この1ヶ月ずっと同じ様子でひたすらに政務をこなしていた。
1ヶ月前の元王妃の出奔騒動に端を発した、帰還のゴタゴタは自分の掛けておいた保険が功を奏して、心配していたような国内貴族の騒動には及ばなかった。
王妃直属の警女隊を動かした事についてうるさい金食い虫も居たが、こちらも何もしていない訳ではない。
叩けば出てくる埃の一つ二つくらいは、いつでも叩けるようにしている。
それ以外に厄介な事はいくつかあった。
まず一つ、国王と王妃の関係に歪みができた。
次に一つ、元王妃の体調が芳しくない。
次に一つ、まだ悟られていないがいずれ問題となってくる上記の件は、人間関係の縺れから来ている為に手出しが出来ない。
それ以外にも横領の疑いの強い自治領が浮かび上がってきたが、それは対処のしようもあるだろう。
自分が理屈的な人間で、合理的な考えをしていると宰相は思っていたのだが、案外と他人の感情の機微を察する事の出来る人間である。
そして他人の心情を推し量る事に向いていないのが、この国の国王だ。小さな感情の機微など問題にならない程のカリスマ性と、頭の回転を持つために統治という一点においてそれは弊害とならない。
問題にならないものは勿論放置される。
それどころか誰も気付かない。
それがここに来てまさかな……
宰相は書類に忙殺される未来の垣間見える国王に吐いた溜息に追加して、また一つ溜息を零す。
「よせ、こちらまで陰気がうつる気がしてくるぞ」
書類から目を離さず、手も休めぬままそう言い放つ国王の姿は勤勉で誠実だ。
この方はやはり国王なのだ。
国王として生まれて
国王として育ち
国王であるべくしてある人物
それが目の前の幼馴染である事を願い、祈り、
最近の愚直とも思える振る舞いに終止符を打つ為の策を考えながら返答する。
「これは失礼を。
善処いたします」
そう言って宰相は頭を下げた。
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