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「王女様が自害なされようとしておりました」 ビキッと青筋が立つのが分かった。頭に血が上るとそうなるのだなあと冷静な部分で考えている。 執務室に毎日齎される侍女からの報告に、控え目にも頭の痛くなる思いだった。 「……そうか」 喉元まで出掛かった罵声や怒りに任せた言葉を、拳を握り込んでなんとか飲み込む。 「国王陛下、無礼を承知で諫言を申し上げます」 そうは言いつつ、許可を求めるような視線に頷く。 「……王女様は、もう限界をとうに超えておられます。静養地にてお休み頂くのがよろしいかと愚考致します。 王城におられても高い塔に幽閉され、あれでは貴殿下も十分なお身体でお生まれにはなりません。御母堂の王女様は2日に1度余りの頻度でしかお食事を召し上がられません」 「国母の自覚が足りないようだ。無理矢理にでも栄養を取らせろ」 「悪阻なのかご自身によるものかは判断しかねますが、強くお勧めすれば口にはされるものの嚥下の途中で戻されます」 「……」 低く唸りを上げるような声で何を言っても、鋼鉄の意思を持った次女は無表情で返答してくる。 ままならない事が多過ぎる。 ギリッと噛み締めた歯から軋んだ音が立ち、生理的に嫌悪する音にまた苛立ちが増す。 「ならどうしろと言うのだ? 静養地と一言に言うが、あれの立場は不安定に過ぎる。長年望めなかった後継だ、保護すべきと主張する意見が大半だが、後の遺恨を憂いて国外の貴族に降嫁するか、国母となった後は修道院に入れてアリシアの養子にすべきとの意見もある。」 それならまだまだ良い方だ。 「それを徒らに刺激すれば、強硬手段も辞さんだろう。血生臭い事態を望むなら別だがな」 グッと侍女は言葉を飲み込んだ。 ここまで口にしておいて、さらに飲み込むべき言葉があったとは驚きだった。 「申してみよ」 「……ならば、そうなされば宜しい。」 キッと睨み上げる反抗的な視線に、グツグツと煮たっていた苛立ちが吹き零れる気がした。 「……何だと」 「そう、なさればよろしいのです」 額に立った青筋が、ブツンと弾ける音が耳の奥に響いた。
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