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「この者を捕らえよッッ!」 腹の底から煮えたった怒りの声に、部屋の前に待機していた近衛が慌てた様子で扉を開ける。 素早く眼前の侍女を引き倒して拘束する。 「抵抗はなしか。よく心得ているようだ」 捻りあげられた腕が痛いのだろう、眉間にグッと皺を寄せるが反抗的な視線だけはずっと此方に注がれたままだ。 「国王陛下にご意見出来るような立場でない事は先刻承知しております故。ただ、この首が落ちようとも、王女様が幼い頃よりお仕えし心よりの忠誠を誓っている身としましては、口にされない王女様の意を汲み 、手足となり時には口となってお守りする所存でございます。」 「……相当な覚悟だ。望み通り、最後の言葉として聞いてやろう」 今にも部屋の隅にある剣を伸びそうな手を押し留めて、侍女を斜めに見下ろす。 「国王陛下は、恐れながら1人の男性としてのご自身をアリシア様に見出されたのだと推察しております。ですが貴方様は、王女様を1人の女性としては接してくださいませんでした。」 ここで初めて侍女が悲痛そうに目蓋を下ろす。 「無体を強いて宿った命も、王女様ご自身も一切見舞わず、私がどんな事をご報告申し上げてもお言葉は国の後継の事ばかり。もう臨月まで残り幾日。日々痩せ細っていかれる王女様を、一度でも目にすべきです。ご自分が一体何をしたのか、人として欠落した自己を精々直視なさるがよろしい!!」 反抗的だと思っていた眼は、明らかな憎しみを宿して最後は思い切り叫び物申す。 余りの剣幕に近衛もたじろぐ。 ……果たして内容に共感する部分があったのか、剣幕に押されたのか疑問だがな。 刺さる様な冷たい視線を受けても侍女は目を逸らさず、逆に視線だけで射殺さんと睨み上げてくる。 「言いたい事は済んだようだ。 連れて行け」 是の返事をして、無理矢理に侍女を立たせると近衛は部屋を出て行く。 「……」 握り締めすぎた拳を、思い切り怒りのまま執務机に振り下ろす。 ガァアアンンッッ 轟音を轟かせ机が崩折れ、追随して机の上の物がバラける。書類が舞い、インクが飛び散る。 フーフーと興奮した獣のように微動だにしないまま怒りを抑え込む事に集中する。 どれくらいそうしていたのか、我に返ったように怒りが形を潜めた時には明るかった空に朱が混じっていた。 ブルブルと震える拳を解いて眼前に翳せば、いつか見たように掌にはくっきりと爪の形に皮膚が裂けていた。栓を解いた事で溢れる血を、水を払う仕草でピッと飛ばす。 燻る怒りはそのままだが、幾分息の出来る状態に頭の隅でホッと息を吐く。 侍女の言う事を怒りと共に反芻しながら、それでも頭の半分が冷静に言うのだ。 侍女の言葉は、至極真っ当なことだと。
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