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「何事ですか」
いつになく早足の宰相様と廊下ですれ違う。
後ろの近衛が何か報告してるけど、どうしたのかしら?
「……これは、アリシア王妃殿下。
このように作法も儘ならぬとはお恥ずかしい限りですが、火急の用件につきご容赦ください」
スッと腰を折る宰相様に慌てて首を振る。
「えっいえ、そんな!
お急ぎなのでしょう?私など気にせず行ってください」
宰相様は一瞬戸惑ったように目を細め、何か決めたのか小さく頷いた。
「殿下も無関係ではありません、御同行いただけますか」
私も関係のあること。
こんなに宰相様が慌てて駆け付けるような事に、私が関わっている?
「宰相様がそう仰るのであれば」
こくりと頷くと、宰相様と話し始めてから数歩下がっていた侍女は移動を察して、心得た様にすぐそばに控える。その侍女の姿を見て、以前を思い出した。
アリシア様の侍女が一時側で仕えてくれていたけど、アリシア様が教鞭を執るようになってからは城仕えになっていた。
アリシア様が塔に幽閉されてからはアリシア様付きに戻ったときいた。
……何で今思い出したんだろう。
「王女殿下の侍女が、陛下のお怒りを買ったようです」
「ぇ……?」
礼儀正しく、礼節は何よりも重んじなければいけない。
真剣な表情でそう口にした侍女の姿が頭を過ぎる。
あれはもう1年以上も前のことだ。
……彼女が、陛下に無礼を??
ピンとくる事案は1つだけだった。
……クレア様の事だ。
そう、きっと彼女が自分の芯を曲げるとしたら、あの方の事に間違いない。そんな確信を持って、宰相様について行った。
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