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私が自室に入ったその時、父が廊下を走る音がした。
いつになく、焦っているような。
そんな感想。
どたどたと慌ただしい音が響いたかと思えば今度は、ばんっという大きな音が聞こえた。
私の部屋ではない。
隣の、母の部屋の扉が開かれる音だった。
母は、この時間帯はいつも内職をしている。
少ない給料だが、少しでも足しになるようにと、寝る間も惜しんで、弱い身体を酷使して、仕事をしていた。
母が集中して仕事をしている時は、部屋に入ってはいけない。
それどころか、ノックすらしてはいけないと言われていた。
集中することは、体力を要する。
つまり、一旦切れた集中をまた戻すにも然り、ということ。
ちなみにこのことを取り決めたのは、父。
母の身体を心配してのことだった。
そんな父が、何故わざわざ自分が取り決めたことを破るのだろうか。
そして、また私を取り巻き始めた不安に似た感覚。
思わず、鳥肌がたった。
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