21. ベンチウォーマー

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「……と、と」 女は、猶人から体を離した。 右足を気にしつつ、少しよろけながらも垂直に立つ。 (あれ? 右足?) スニーカーから出ている女の右足首には、テーピングが巻かれてある。 「ごめんなさい。ちょっとよろけちゃって」 申し訳なさそうに、女は小さく頭を下げた。 「あ、いえ」 大きな紙袋を持っている左手の薬指には、指輪が光っている。 (何だ。既婚者か) 「ええっと……」 「ファームの観戦、ですか」 猶人が尋ねると、女はその瞳を大きく輝かせて、少しはにかむように笑った。 「はい。久しぶりに」 (きれーな瞳だな……) 透き通るようなその瞳に、猶人は不思議な安堵感を覚えた。 (顔は全然普通なんだけどな) 全体的な雰囲気は、大人しく優しげで、少し儚い感じがする。 「あっれーーー?」 聞き覚えのある声がして、猶人が顔を上げると、私服姿の大谷連児が、キーホルダーを指で回しながらやってきた。
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