ドッペルゲンガー

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そう、いつもの今日だったんだ。 いつもの退屈さ、毎日の窮屈さ、日々の普遍さ、日常の不憫さ。 そんな面白味の無い平和な日が、ずっと続くと信じて疑わなかった。 「やっほー、元気かね?佐々川 鈴(ササガワ スズ)君? 退屈そうな顔だねー。少しは、私を見習ったらどう?」 学校へと向かうなだらかくちょっと長い坂道をゆっくりと進んでいた時、後ろから明るい声がかけられた。 「いや、フルネームで呼ぶ必要なくね?」 振り向くと、いつものように楽しそうな顔があった。 神無月 夜宵(カミナシズキ ヤヨイ)。青いショートの髪、太陽に少し焼けた肌、俺と同じ高校の青い制服を着ている。 俺の彼女だ。一年の時から付き合って、もう二年が立つ。 「ダメだよ?やる気出さないと。君は、受験生なんだから。 僕と同じ大学に入らないと、見放しちゃうよ?」 ポンポンと俺の肩を叩きながら、首を横に振る夜宵。 「それなりに頑張っているって」 「それなりに、ねぇー。まぁ、いいや。また一緒に勉強すればいいさ。 高校の受験の時みたいに、ギリギリはダメだよー」 そう言いながら夜宵は持っていた鞄をあさぐる。 そこから、一冊のノートと本を取り出した。 「これが過去問集で、このノートは過去問集の中で解りづらくて、難しい所をリストアップしたものだよ。 君のために頑張ったんだから、もっと頑張りな!」 ノートと本を俺に押し付ける。 パラパラと適当にノートを捲ると、最初から最後までビッシリと文字と図形で埋め尽かされていた。 「うっわ、やる気無くなった」 「なんだとー!?」 ぽこぽこと俺の頭を殴り付ける。 ふと、視界の隅に見かけることの少ない『色』を捉えた。 「あれは、なんだ?」 少し先の道路の向こう側、横断歩道の白黒の先に、黄色と橙が混じった。 花瓶に飾られている一輪の菊の花。 「ああ、あれ?知らないの?あそこ、少し前に交通事故があって、一人の男の子が運悪く、ね」 「そんなことがあったのか。気を付けないといけないな、俺たちも。 ここは電灯少ないし、信号機も少ないからな」 「そうだね、気を付けないと。何が起こるかわからないもんね」 それが、最後の笑顔だった。 キキィー!ぐしゃり。 何が起こったのか? 視界が歪み、遠くで聴こえる夜宵の悲鳴、何も感じない体。 目の前、いや、体の上に重く、のしかかる大きなタイヤ。 その日、俺は死んだ。 ピーーーーーーーーーーーー
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