ドッペルゲンガー

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そう、いつもの毎日だ。 いつもの世話しなさ、毎日の疲労、日々の鬱憤、日常の忙しさ。 そんなすぐに過ぎ去ってしまう日の平和さが、ずっと続くと信じて疑わなかった。 「やっ、お疲れさま。佐々川 鈴(ササガワ スズ)君。 疲れた顔ねー。少しは、休んだらどう?」 会社の仕事がやっと一段落終えて、ようやく家に帰れると思った時、後ろから陽気な声がかけられた。 「いちいち、フルネームで呼ばないで下さい」 そう言いながら振り向くと、いつものように陽気な顔があった。 神無月 夜宵(カミナシズキ ヤヨイ)。青いショートの髪、太陽に少し焼けた肌、青いスーツを着ている。 俺の上司だ。ウザイ人だ。 「ダメだよ?しっかりと休まないと。過労症の傾向があるよ。 君が体を崩したら、誰が監督役になると言うのかな? それなりに休んで、頑張って!」 「それなりに、ですか。しかし、あなたから押し付けられた仕事がまだ沢山あるのですけどねぇ」 そう言いながら俺は机の上に置いてあった資料を手に取る。 「これが先週ので、これは来週のミィーティング用の資料。さらに、 顧客からの解りづらくて、難しい所をリストアップしたアンケート。 本来は、あなたの仕事なんですから、俺に押し付けないで下さい!」 分厚い資料集を神無月に押し付ける。 神無月はそれを、パラパラと適当にノートを捲ると、最初から最後まで見て、顔を青冷めさせた。 「うっわ、やる気無くなった」 「やる気無くなるのは、こっちです!」 会社の中だと言うのに、俺は上司に向かって叫んだ。 ふと、視界の隅によく見かけていた人の机を捉えた。 「そう言えば、あそこの机、空いていますよね?」 俺がその机を指差すと、神無月は眉を歪ませた。 「何を言うんだい、君は?あそこは、しっかりと人がいたよ。 つい先日、不慮で彼が亡くなって、皆で弔ったよ?覚えてないの?」 「そんなこと、有りましたっけ?なぜ、亡くなったんですか?」 「ちゃんとやったよ。死因?確か、心臓発作だったかな? まぁ、いいや。佐々川 鈴君、この仕事やって」 それが、最後の笑顔だった。 どくんっ! 何が起こったのか? 視界が歪み、遠くで聴こえる神無月の悲鳴、何も感じない体、心臓が痛い。 体に引っ付く床。だんだんと、意識が遠退いていく… その日、俺は死んだ。 ピーーーーーーーーーーーー
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