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そう、いつもの通常日だ。
いつもの夜、毎日の暮らし、日々の他愛なさ、日常の風景。
そんなほのぼのとした日の平和さが、ずっと続くと信じて疑わなかった。
「おかえりっ。鈴お兄ちゃん。
お腹減ったよー。早く、ご飯食べに行こ!?」
学校から帰ってくるなり、玄関を開けると、嬉しそうな声で俺を迎え入れた。
「なんで、食べに行こうなんだよ?」
靴を脱ぎながら横を見ると、いつもより嬉しそうな顔があった。
佐々川 夜宵(ササカワ ヤヨイ)。青いショートの髪、太陽に少し焼けた肌、青いワンピースを着ている。
俺の妹。
「んー?あのね、お母さんとお父さんが、今日遅くなるから、お兄ちゃんと一緒に、食べに行きなさいって!
どこに、食べにいくー?お金、それなりに貰っちゃったんだー」
「それなりに、か。しかし、あんまり高い所にはいかなからな」
そう言いながら俺は取り合えず上の学生服脱いで置いた。
ついでに、鞄から本を取り出して、鞄だけ置く。
「これ、過去問な。んで、ノート。
俺の高校に行きたいんなら、これに目を通しておけ」
過去問とノートを夜宵に押し付けた。
夜宵はそれを、パラパラと適当にノートを捲ると、顔を青冷めさせた。
「うっわ、やる気無くなったよ、お兄ちゃん」
「頑張ることだな。ま、後で泣くのはお前だ。しっかりやれよ?」
そう言いながら俺は靴を履き直して、家から外へと出た。
後ろから夜宵が続き、家の鍵を閉める。
「そう言えば、あそこの家ってさ、もうずっと電気付いていないよな?どうしたんだろう?」
俺は向かい側の家を指差すと、夜宵は俺に近づき、俺の背中を押して先を進ませる。
「お兄ちゃんが、覚えていなんなら、気にしない!いいから、早くご飯食べに行こうよ、お腹減ったぁー!」
「そうか。わかったよ、さっさと食いに行こう。
そうだな、お前が好きなあの店に行くか」
「おお!お兄ちゃん、わっかるー!うふふ、私、あそこのハンバーグ定食、大好きなんだよねー。
そうと決まれば、走るよ、お兄ちゃん!」
俺を見ながら走り出す、夜宵。
それが、最後の笑顔だった。
ぐさりっ!
何が起こったのか?
胸が熱くて痛い、遠くで聴こえる夜宵の悲鳴、どんどんと寒くなる体、胸から生える包丁と流れ出る血。
目の前には、覆面の男。男はさらに、俺の頭へ包丁を突き立てた。
その日、俺は死んだ。
ピーーーーーーーーーーーー
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