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ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、バス停へと向かって歩いてくる人波に由梨さんの姿を求めて、忙しなく視線を走らせる。
……。
いつもの時間を5分経過。
大丈夫、きっと来る。
精神安定の呪文を唱えて、すぐに不安に駆られそうになる心を落ち着かせる。
………。
10分経過。
今日は仕事が長引いてるのかも。
……でも大丈夫、きっと来てくれる。
……………。
さらに10分が過ぎたときにはもう精神安定の呪文はすっかり効力を失っていた。
だって、今まで20分以上も遅れたことなんてなかったのに―――。
ジワリと嫌な汗が浮かぶ。
しっとりと汗をかいた手のひらは指先だけ妙に冷たい。
握り締めていた携帯を開いて由梨さんのアドレスを表示させる。
電話、してみようかな。
今度はさっきとは違う種類の緊張感が襲ってくる。
ドクドクとうるさく刻む胸の振動が全身に伝わって、発信ボタンにのせた指先までも微かに震えている。
ゴクリ、と喉が鳴る。
もしかしたら、この電話が最後になることだってあるかもしれない―――――。
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