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「あっっ、うわっ…!!」
手から携帯が滑り落ちそうになって、慌てて両手でキャッチする。
一瞬、暑さと焦りで幻でも見たのかと思ったけど、幻覚ではないらしい。
目の前にいる由梨さんは、走ってきたのか息が上がっていて額には汗が滲んでいる。
「あのっ……ごめんなさい。遅くなって……。」
か細い声でそう口にすると、泣き出しそうな顔で頭を下げた。
「いやっ、全然大丈夫だから。あ、頭上げてよっ、それより、あの……。
……ありがと、来てくれて。」
おずおずと頭を上げた由梨さんが、少し潤んだ瞳で申し訳なさそうに俺を見上げる。
そこまで気にすることないのに、と思いつつ由梨さんの目を見てもう一度伝えた。
「ほんと、来てくれてありがとう。めちゃくちゃ嬉しい。」
「裕二くん……。」
「並ぼっか。」
バス待ちの列に二人で並ぶ。
隣に由梨さんがいる。
ちゃんと、来てくれた。
さっきまでの不安が嘘みたいに消えて、ふわふわと浮かれてる俺。
少し遅れたくらいで気持ちが揺らいだ自分が恥ずかしい。
……ゴメンね。
心の中で謝りながら隣に視線を向けると、由梨さんは少し俯いてハンドタオルで額の汗を抑えていた。
今日の由梨さんは後で髪をひとつに束ねていて
露になった白くて細い首筋の、思わず吸い付きたくなるような艶かしさにドキッとして、慌てて目を逸らした。
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