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「仕事、忙しかった?」
「………。
……本当にごめんね。待たせちゃって……。」
「あ、ゴメン。そういう意味じゃないよ。
仕事だもん。学校みたいにいつも同じ時間にぴったり終わるとは限らないよね。大変だな~って思って。」
「………あ…うん…。……。」
うーん、フォローするつもりが逆効果になってしまった。
由梨さんは遅れたことを相当気にしているらしい。由梨さんてほんと真面目……。
「髪、結んでるの初めて見た。」
「おろしてると暑いから…。」
「似合ってるよ。可愛い。
……うなじがちょっとエロいけど。」
「え?…ろい?」
「うん。」
にっと笑うと由梨さんは「もう」と口を尖らせてから、ようやくふっと表情を緩ませた。
到着したバスに一緒に乗りこむ。
窓に向かって並んで立つと、懐かしいような、切ないような、上手く表現しがたい気持ちがこみ上げてきた。
「久しぶりだね、一緒にバスに乗るの。」
「ふふ。そうだね。」
隣で由梨さんがふわりと微笑んだ。
あ……。
やっと笑ってくれた。
ずっと、ずっと逢いたかった由梨さんの笑顔。
瞼の裏に焼きついていた泣き顔を笑顔に上書きしながら、またこうして一緒にバスに乗れる幸せをそっと噛みしめた。
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