1時限目

5/14
前へ
/16ページ
次へ
「矢沢、真面目に成績について考えろよ? 有栖川が留学の希望ならお前は留年の危機だ」 先生の言葉にまさかと思い、ちらりと覗く彼のテスト結果。 0、0、0、3… 一桁っていうよりも、丸でいっぱいだ。 答案用紙だったならどれだけ幸せだろう。 「わぁ、一文字の違いで人ってここまで差が出るんだねー」 この成績で危機感を感じていない様子の矢沢くんに、頭がくらりとする。 『人間、頭が少し悪くたって、性格が良ければカバーできるんだよ』 昔どこかで聞いた言葉が、急にものすごい胡散臭く感じられた。 「あ、先生…私は席に戻って予習を……」 「あっ、ちょっと待った」 逃げに走る私に、無慈悲にも先生の待ったが入る。 すごく、嫌な予感だ。 「丁度良かった。 お前成績いいだろ? 矢沢に勉強教えてやって。 大丈夫。 矢沢が赤点回避出来るまでだから」 ……嘘だ。 コレ絶対夢だ。 「え、いいの?! ありがとうっ!」 「いや、私まだ何も言ってな…」 「じゃ、よろしくな」 ちょ!!先生!? 肩の荷が降りたように、すっきりとした担任の背中を、私は一生忘れないと、心に誓った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加