暴君は一日にして成らず

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 視線の先に、父上と虎ノ介が現れた。  俺をみとめると同時に、父上は目を細める。心許なくて、そっと視線を横にずらした。  目立つ。  父上は、まわりと頭ひとつ、下手したらふたつ分は違う。  それだけでなく、顔の部位のひとつひとつから、その位置、手足の長さ、太さ、その比率が、見るものを陶酔させる。  脳に最も心地いい、芸術作品からもはじかれてしまうくらいの完全な個体は、そこにいるだけで、とにかく目立つのだ。  父上が目立つように、俺も目立つ。生き写しとまで言われるのだから当然だ。  だから、外では、常に気配を消すようにしてる。不用意に目立っていい商売じゃない。目立っていいことなど、なにひとつない。  ──だったら、どうしてあの少女は、俺に“気づくことが”できたんだ。  俺は気配を絶って座っていたというに。  誘導する虎ノ介が、その店のガラス扉を開けた。  父上と俺を中に入れて閉め、俺たちの横をスッと通りすぎて、 「佐藤です」  どこのどいつだ。
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