暴君は一日にして成らず

11/44
前へ
/44ページ
次へ
 通された場所は、小さな個室だった。 「だから、佐藤、鈴木、高橋。日本だったらこの3択でしょう」 「中国での、王、李、張みたいな感じか?」 「United KingdomでのSmith 、 Jones 、Williamsみたいな」 「ウズベキスタンでのAhmedov、Khodjaev、Karimov」 「ウズベキスタン?」 「今、鳥雅が長期任務で行っているのだ」 「うえ。きな臭い仕事ですね。大丈夫か、あいつ」  店員が見せるメニューを父上は手の甲で払い、 「一番いいのを頼む」言って虎ノ介に向き直り、「大丈夫だ、問題ない」 「……それ、一番心配なやつ」  父上と虎ノ介の軽口を聞き流していると、目の前にコトリと皿が置かれた。  う……。 「フルーツトマトの燻製バルサミコソテーでございます」  皿が真っ赤だった。 「なんだ皇士郎、食わんのか」  食うもなにも、今、赤いものを口に入れられる気がしない。 「いえ……」  皿から逃れるように視線を上げれば、赤ワインが入ったグラスを口に寄せる父上と目が合った。  うっ。  強烈な、めまいに襲われた。  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

559人が本棚に入れています
本棚に追加