暴君は一日にして成らず

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 ……赤ワイン、嘘だろう。どうして、今、そんなものを口にできるんだよ。 「すいません……腹が減っていないもので」  父上は、そうか、とグラスをテーブルに置いた。 「皇士郎、仕事がつらいか」 「つらいとは」  質問で返すと、父上はひとしきり考え、再びグラスを持った。そんなことはどうでもいいから、一刻も早くこの皿を下げてほしい。 「仕事は嫌か」 「さあ。そのようなこと、考えたことありません」  かつては、考えたこともあるような気がする。しかし、いくら考えたってどうすることもできない。  考えるだけ無駄だ。  だったら、なにも考えないほうがいい。  つらいのか、つらくないのか、嫌かそうじゃないのか、わからない。  そんなこと、どうでもいい。  
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