暴君は一日にして成らず

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   ***  虎ノ介は、自分の従者が外へ仕事に行くときに、極秘扱いで調べさせているようだった。  その結果として冊子が手元に届いたのは、半月ほどたった頃だった。 「田中、亜弥……あや」  思わず零れ落ちた俺の呟きに、虎ノ介はぴくりと肩を強張らせた。そして何か言いたげな口を引き締める。 「何が言いたい」  近頃、虎ノ介は思う心を隠すのがうまくなった。それなのに、俺の胸の内は虎ノ介に見透かされているようで。 「……これ以上の調査は無用と存じます」 「無用?」  冊子から虎ノ介に視線を移すと、虎ノ介は眉をひそめて顔を伏せた。 「貴様、自分が言っている意味をわかっているのか? なんの理由もなしに無用と突きつけられて、はいそうかと納得する道理がどこにある」 「皇士郎様が御為(おんため)」  そのひとことに、どうしようもなく腹が立つ。  虎ノ介はそれを見透かしたうえで、淡々と言葉を紡ぐ。 「所詮は外の人間、住む世界が違うのです。それに、あなた様が興味を持つに足る人物ではありません」
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