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それからというもの、修業の合間に、虎ノ介から次々と上がってくる調査結果を見て過ごすのが日課になっていた。
得意なもの、苦手なもの、好きなこと、苦手なこと、文章化されたそれらは、そのどれをとっても、可愛らしく微笑ましかった。
手が届かない、次元を異にする夢幻世界のようでもあった。
そして、写真の中で少女はいつも誰かに笑いかけていた。
『皇ちゃん、笑いなさい。笑う門には福きたるーってね。そんなにしかめっ面してたら、幸せがしっぽまいて逃げだしちゃうんだから』
ちりちりする指先で笑顔をなぞるたび、ある女のそんな笑い声を思い出し、思い出してはまた眺める。
なにがそうまで楽しいのだろう。
なにがこうまで嬉しいのだろう。
なにを思って笑っているのだろう。
なぜ、いつも笑っていられるのだろう。
真理が望んだことのなにひとつも俺はできていないというのに、この少女はどうしてできるのだろう。
そう考えるほどに頭を占領し、胸を満たしていった。
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