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「皇士郎様」回を重ねるごとに虎ノ介の表情が浮かないものになっていく。「今回の調査分でございます」
その、まだ飽きないのか、という目にはもう慣れた。
飽きるどころか、まして渇くようだ。とめどない。抑えがきかない。
俺の中、奥深くに巣食う、知れない俺が、もっともっとと渇望に震える手を伸ばす。
「皇士郎様、今宵の閨(ねや)ですが」
今手渡した“田中亜弥”からほんの一瞬でも俺の気をそらせようとしているかのように、虎ノ介はわざとらしい口調で言った。
――まるで無駄なこと。
はやる気持ちを抑えきれず、冊子をはらりとめくる。
はたと我に返れば、くつくつと笑いが込みあげてきた。
「こ、皇士郎様……?」
ついに俺の気が触れたかと思ったのか、虎ノ介は、目を見開いて戸惑った声で窺う。
「いや、女どものことを言えんと思うてな」
我を忘れてここぞとばかりに浅ましくねだってくる女どもと同じではないか。
「して、その閨がどうした」
「え、ええ……今宵のお相手は、二見浦の従者で、七久保の血を引く上地区の娘です」
「だからどうした。そのようなこと一々告げずともよいと何度も――」
くさくさと吐き捨てながら、ページをめくった直後、そこに意識のすべてを持っていかれた。
冊子の綴じ目に食い込ませるように挿まれた写真で、少女は笑って“なかった”。
今朝は早くから雨が降りしきる。やむ気配は感じられない。
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