559人が本棚に入れています
本棚に追加
半宵、灯篭のともしびに豊かな乳房が背の反り様に比例して張りつめる。あらあらしい呼吸に合わせて揺らめく。
月明かりがないだけまだましだ。あの青白い光を触媒にして、どろどろに溶けていく。崩壊の音が頭蓋骨に振動する。
吐き気がとまらない。
「こう……のきみ……」
呼ぶな。
(皇の君……)
雨音にかき消されない声で呼ばないでくれ。
頭が割れそうに痛い。
ぐずぐずに煮立った見上げる瞳は、欲望に濁りきって、その中心に歪曲した俺をうつしだす。
吐きそうだ。
弓なりに反った白い首に這わせた指先から、全身に駆け抜けようとする鳥肌を抑えるために、神経のほとんどを費やさなければならない。
そんな俺を、もうひとりの俺が氷の瞳で見下ろしている。
無駄だ、と。
馬鹿馬鹿しくて滑稽で、息苦しくて、気持ち悪いだけのこれに、いくら意味をこじつけようとしても、生殖を目的としないのならば、ただのこじつけでしかない。
――セ。
頭の中で声がする。何度も何度も、重なり合うほどにこだまする。
その声に耳を傾けてみれば、それは俺自身の感情が欠落した声で、
――コロセ、殺セ、殺せ。
声の、言葉の、意味を理解して我に返れば、指先に力がこもっていた。
熱を帯びていく身体にあらがうかのように背筋が寒くなる、その瞬間、排泄行為にもならない生理現象として、爆ぜる。
ようやく脱力した指々の間には、昇りつめた女の、細く白く柔い首があった。
最初のコメントを投稿しよう!