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「皇士郎、待たせたな」
低く腹に響く声が耳に届き、おもむろに振り返れば、そこには、14年後の自分がいた。
「いいえ、父上。言うほど待っていません」
俺と父上はよく似ているという。父上の幼少時代を知るものは、そう遠くない記憶に思いを馳せ、「まるで生き写しだ」と目を細めた。
でも、違う。
一番肝心な部位が、まったく違うのだ。
「どうした皇士郎。疲れたか」父上は、その違う部分をすがめた。「心が乱れておるぞ」
光さえ感じるくらいの、力強い瞳が俺のそれを焦がすくらいに見つめる。
「いいえ。ただ走っただけですから」
俺は、それがあらかじめ決められた動作であるかのように頭を振り、目を逸らす。
苦手だ。この目が意味するものがわからない。
父上の目が、どうしても、苦手だ。
「この後、簡単な仕事が入ったんだが……代わりの虎ノ介もいることだし、先に空港に戻っていてもいいぞ」
「いいえ。平気です」
その目が俺の目を見つめていると思うと、落ち着かない。
奥歯の奥がうずいて、無性に叫びだしたくなる。
「そうか。では、終わったら飯でも食って帰るか。虎ノ介、適当に店を取っておいてくれ」
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