559人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
ナイフを標的に置き去りにして、歩みを進める。
ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。
たった一度の感触が、何度も何度も手の中で繰り返される。
ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。
背後で女の悲鳴が聞こえた。
ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。
悲鳴は広がり、伝染し、交差点の中心から波紋が広がるように、行きかう人々は順々に振り返る。
ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。
手のひらを強く握りこみ、俺もその波紋のひとりとなって、振り返る。
そうしてようやく気配を絶つ。
群衆の中、心の声がひとつだけ途絶えるタイミングに重ね合わせて――。
最初のコメントを投稿しよう!