暴君は一日にして成らず

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 ナイフを標的に置き去りにして、歩みを進める。  ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。  たった一度の感触が、何度も何度も手の中で繰り返される。  ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。  背後で女の悲鳴が聞こえた。  ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。  悲鳴は広がり、伝染し、交差点の中心から波紋が広がるように、行きかう人々は順々に振り返る。  ズクリ、ズクリ、ズクリ、ズクリ。  手のひらを強く握りこみ、俺もその波紋のひとりとなって、振り返る。  そうしてようやく気配を絶つ。  群衆の中、心の声がひとつだけ途絶えるタイミングに重ね合わせて――。
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