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「そういうカガミだって試験も模試も上位じゃん。別に凄くなんてねぇよ」
「もう謙虚なんだから~まぁ、そんなところも好きなんだけどー」
そういって背後から抱きついて来るのはいつものことで。俺はそれを慣れた手付きで切り離していく。
それよりも、だ。
「で、どこに行くんだ?」
「あれぇ、本当に着いて来てくれるの?」
「成り行きとはいえ、了承したからな」
今朝、授業が始まるギリギリまでカガミがどうしようもない話を一方的にしてきたんだが、聞き続けるのが面倒臭くなって相槌だけ打っていた。
そしたら何時の間にやら、放課後はカガミの用事に付き合う羽目になっていた。
少し前にその話の確認をされて覚えのない顔をしたら、話を聞いていなかったことがバレてしまったと言うわけだ。
「なぁーら遠慮なく付き合ってもらおっかなー」
「だから、どこへ?」
「それは着いてからのぉ、お・た・の・し・み」
「・・・・」
ウィンクと共に焦らすような言葉。
……それに俺は、どう返せばいいんだ?
制服のまま、迎えに来た黒塗り車に揺られて早30分。
連れて来られたのは都内一等地に門を構える有名コンサートホールだった。そしてどうやら、ただのオーケストラ演奏ではないらしい。
客は俺たちが乗ってきた高級黒塗り車と同じ上、恭しくエスコートされて降りてくる人ばかりだった。普段からこういう車に乗り慣れている階級の人物ばかりが招待された公演らしい。
「ふっふっ、じゃーんっ!先々週に来日したばかりの有名オケ楽団で、今日のチケットが二枚手に入ったからさー」
え……オーケストラ楽団、だと?!
まさかいきなりオーケストラに連れて来られるとは……そうと知っていれば、絶対に了承なんてしなかったんだが。
たどり着いた場所が俺にとって都合の悪い場所だと理解した途端、無性に帰りたくなってきた。
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