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たどり着いた場所が俺にとって都合の悪い場所だと理解した途端、無性に帰りたくなってきた。
というかなっ、先ずは「クラシックに興味あるか?」って聞くのが常識だろうがっ!
内心で憤ってみたものの、落ち着いてみると別の回答が頭をよぎった。
カガミがそれを省いてまで連れてきたってことは、それだけ価値のあるものだと思ったのかもしれない。
見かけはこんなにチャラくても、中身はちゃんと計算高いからなぁ。
「――しかも今日限定でヴァイオリンのソロパートのソリストはウチの学校の生徒が担当するんだって」
「・・・・・・」
レアだよねぇーと続けるカガミは話すのに夢中らしく、俺の異変には全く気付いて無かった。
「ほらほら、呆けてないで席にいこうねぇ?」
「え、あっ?!」
満面の笑みで俺を引っ張るカガミは確実に勘違いをしていた。
その証拠にカガミは笑みを浮かべたまま「嬉しさのあまり呆けるほどビックリして~」と、呟いているし。
ここまで来て、グイグイ引っ張るカガミを逆に引き止めるのも可笑しな話か。
せっかく誘ってくれた手前、理由も言わずに逃げるわけにもいかない…
――はぁ…仕方ない、今日ぐらいはカガミに付き合うか。
そうして俺は大人しくカガミの後について行き、着席したのであった。
ゴージャスな内装に感嘆しつつ、案内された場所は貴賓席だった。
「(めちゃくちゃ良い席だな、おい)」
「(まぁ、一等席だからねぇ」」
小声で会話している理由は、すでに演奏が始まっているから。
流れる演奏は文句のつけようが無い、完璧な音調・音程だった。気を落ち着かせて聞いていられる安心感がある。
だから演奏に耳を傾けながら、視線はオーケストラ団員たちではなく手元のプログラムに向いていた。
このオーケストラプログラムを読んでいたら大体の話に合点がいった。
会場に入る少し前にカガミが話していた内容は半分くらいしか聞いてなかったが、正直たかが高校生がこんな立派なホールでソロ演奏とか何の冗談だと思っていた。
しかしこのプログラムを読む限りでは今日の演奏スケジュールはフェスティバルオーケストラも兼ねているらしい。
若手演奏家たちばかりを集めて演奏をするフェスティバルオーケストラだが、今回に限っては少数の若手演奏家だけを参加させる形のようだ。
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