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そして何より奴の演奏力、そしてヴァイオリンを構える立ち姿は最高に凛々しく、美しく、洗礼された仕草で……
俺の意に反して、その姿に思わず見惚れてしまった。
だからジッと熱い視線を送っていた自覚はある。
そりゃあ、もう目からビームが出るのなら貫通するんじゃないかってくらい様々な感情を乗せて見つめてはいたが。
ソロ演奏が終わった瞬間、俺を見て驚かれる謂われは無いよな?
拍手喝采の中、お辞儀をして下がっていった新條だが依然として見られている気がする。
何だ?と思いながらも拍手を送った俺は、きっと気のせいだなと言い聞かすことにした。俺が知っていても向こうが俺のことなんて知る筈がない。
オーケストラは順調にプログラムを消化し、求められたアンコール曲を終えたところで閉幕となった。
人の出入りの様子を見てからカガミと共にロビーへと出ると、多くの人だかりが既に出来あがっていた。きっと演奏者たちが知人やスポンサーなどに挨拶回りをしているのだろう。
「あ、セイちゃーん!今回のコンダクター(指揮者)が親父の知人だから挨拶しに行ってくるねぇ」
「あぁ、いってらっしゃい」
そう言って傍を離れていくカガミの背を快く見送った。
にしてもカガミ父に指揮者の知人が居るとは驚きだ。たぶん今日のチケットもその人に回してもらったんだろう。
カガミが居なくなって手持無沙汰になった俺は、大人しく壁の花にでもなるかと邪魔にならない位置を探し歩くことにした。
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