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「あれはお前が三つの冬だった。その年は夏が寒く短く、畑の物も山の物も実り少なく、鮭も少ないひどい冬だった。食料が少なくなり、ワシは普段の冬ならいかぬ狩りに出かけた。腹減らしが居ったからの…」
源左右衛門は薄く笑った
「川上に歩き、途中大きな鹿を見つけ矢を放ったが急所を外した…鹿は深手を負いながら川上の奥へ逃げた…気が付いたらアイヌの民は決して近寄らぬ、あの湖の畔までわしは鹿を追っておった…」
タケルは源左右衛門に水を飲ませた。
「鹿は力尽き湖の畔に立っておった。わしは急所を射て倒れた鹿を解体しようとしたときだ…湖の畔…およそ十間ほどの距離を羆が猛然と走って来るのが見えた…冬に飢餓で目を覚した羆は危険極まりない…わしは観念したよ…刀を抜き身構えはしたがの…その時じゃ…湖から恐ろしい物が浮かび上がってきた」
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