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軍隊に入る前の日。
つまり、士官学校の卒業式の日。
その朝。俺達は何かを失うには早過ぎた。
同時に、それに気づくにも多分、遅過ぎた。
卒業式にリオは出なかった。
さすが不良とも言えたが、いやいやヤバいだろ…とずっと考えていた。
それでも出ない奴は出ないし、色々と時既に遅しなんだが。
リオとやっと会ったのは、学校を出る時。
わざわざ遠回りして部屋まで様子見に行ってやった点は、ふざけんなと言ってやりたい。
言ってやりたかった。
その姿が見慣れてはいるまさしくケンカ後のそれじゃなかったら。
「…………何してんだ?」
「………お前を待ってんだよ」
そいつはゴメン―――とか言う訳ない。
「その顔はどうしたんだって聞いてんだよ」
「ケンカした。――ケンカっつーか、だけどな」
「それは別にどうでもいい。誰と?」
「………………………ネルソン」
「あのオニ教官?」
「他に誰だよ?」
「いや、いないと思うけどさ。……お前、誰彼構わずケンカ売んのはやめろよ」
「売ってねぇよ。相手が売ってんだ」
「じゃ買うのやめろよ。もういいオトナなんだからさ」
「解ってるよ!」
それもう何回も聞いた、っていうのは今回は黙っておく事にした。
相当キレてる時は空気だけで解るようになった。
幼なじみかつ腐れ縁ならではってトコか。
「……この後どうする?」
「…………帰るよ」
「そっか」
「お前は?」
「兄貴が迎えよこすって。メッチャ久々だ」
「…………………へぇ」
「………。帰りの列車代、ないのか?」
「…………」
あいにく持ち合わせがなかったから、俺の迎えの人に頼んでみる事にした。
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