白の願い

3/5
前へ
/5ページ
次へ
それからも、そのしらすもどきは、姉の部屋に現れた。 僕はしらすもどきに会いたいがために、姉が部屋にいない時間帯を見計らって、姉の部屋に侵入した。 これは僕だけの秘密だった。 きっと、いつ姉が帰ってくるのかという緊張感と、しらすもどきの不可思議さに、僕は夢中になってしまったのかもしれない。 しらすもどきの正体は、消しゴムのカスだった。 姉の足音を聞き取るために耳を澄ませながら、それを手にしたときの触感が、練り消しを作るときに味わうものと同じだった。 だけど、しらすもどきは真っ白だ。 文字を消すときに付着する黒鉛が付いていない。 きっと、しらすもどきは、何かを消したときに生まれたものではないらしい。 それから何日か後、僕は新たな発見をした。 しらすもどきに、目ができていた。 手に取り、近くで観察すると、その黒い目は、しらすもどきに深く滲み込んでいた。 これはまるで、文字を消したときに付いた汚れというよりも、直接消しゴムに書き込まれたようだった。 手にしていたしらすもどきを机に置きなおしたときに、僕は気づいた。 鉛筆立ての横、そこにはいつも、消しゴムの予備が四つほど置いてあった。 しかし今、そこには何もない。 僕は考える。 姉は、毎日毎日長時間勉強する受験生などではない。 そもそも、最近やたらと机に向かっていたことがおかしい。 しらすもどきが現れたのは、二週間前。 普通、こんな短期間で四つもの消しゴムは消費されない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加