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それからも、そのしらすもどきは、姉の部屋に現れた。
僕はしらすもどきに会いたいがために、姉が部屋にいない時間帯を見計らって、姉の部屋に侵入した。
これは僕だけの秘密だった。
きっと、いつ姉が帰ってくるのかという緊張感と、しらすもどきの不可思議さに、僕は夢中になってしまったのかもしれない。
しらすもどきの正体は、消しゴムのカスだった。
姉の足音を聞き取るために耳を澄ませながら、それを手にしたときの触感が、練り消しを作るときに味わうものと同じだった。
だけど、しらすもどきは真っ白だ。
文字を消すときに付着する黒鉛が付いていない。
きっと、しらすもどきは、何かを消したときに生まれたものではないらしい。
それから何日か後、僕は新たな発見をした。
しらすもどきに、目ができていた。
手に取り、近くで観察すると、その黒い目は、しらすもどきに深く滲み込んでいた。
これはまるで、文字を消したときに付いた汚れというよりも、直接消しゴムに書き込まれたようだった。
手にしていたしらすもどきを机に置きなおしたときに、僕は気づいた。
鉛筆立ての横、そこにはいつも、消しゴムの予備が四つほど置いてあった。
しかし今、そこには何もない。
僕は考える。
姉は、毎日毎日長時間勉強する受験生などではない。
そもそも、最近やたらと机に向かっていたことがおかしい。
しらすもどきが現れたのは、二週間前。
普通、こんな短期間で四つもの消しゴムは消費されない。
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