第1話:遥と千鶴

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  「いやね、あまりにも眉間にシワ作ってたもんだから、ちょっとでも笑かそうと思ってさ」 落とした本を拾うのを手伝ってくれながら、吉岡さんはタレ目を細めて申し訳なさそうに笑う。 どうやら、さっきのあいさつは彼なりの精一杯だったようだ。 「…あ、ありがとうございます」 あたしはあたしで、本を拾ってくれることに対してか、笑わそうとしてくれたことに対してか、どっち付かずの礼を曖昧に返すだけ。 不意討ちで笑いかけられては、いくら申し訳なさそうな笑顔でも胸がキュッと痛くて仕方がない。 「まぁさ、何かあったら…じゃなくても、遠慮なく連絡してよ。いつかみたいに過呼吸にでもなられた日にはマジで寿命縮むし」 「はは、そうですよね。じゃあ、近いうちに連絡しますよ」 「了解」 そうして、拾い終わった本をあたしの手に預けると、吉岡さんは裏の事務所に入っていった。 PM.21:10。 「それじゃあ、お先です」 「はーい、お疲れ~」 今日のバイト、終了。 来たときより幾分軽い足取りで本屋をあとにする。  
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