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「では、ちょっとこちらに」
そう言って小百合さんが立ち止まった目の前には、小さな襖。
それを開ける彼女に続いて中に入ると、簡素な部屋の真ん中に、何やら服が置いてあった。
「こちらに着替えていただけますか?」
「え……」
着物だった。
「ご存知ないと思いますが、実は講演会の後に、もう一度お墓に戻って来る人は結構いるんです」
「そうなんですか……」
「はい。ですが、もうお墓には入れないわけですから、その方たちには塀の外から拝んでいただくという形になります。ですから、その時に、普通にお墓参りしている藤崎さんの姿を目撃されたら、困るわけなんです」
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