8章

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でも小百合さんは、私より大分前から着物を着ているし、しかもいま、部屋の外で私が着替え終わるのを待っている。 そんな彼女のことを思うと、とにかく早くしなくてはと思い、私はまず服を脱いだ。 着物を着た後で畳むのは大変そうなので、とりあえずすぐ畳む。 そして、動いた時に着物が着崩れないよう、白くて少し厚手の、下着の役割を果たすものを着る。 これがしっかりしていないと、あとあと大変だ。 そしてそれを丁寧に着た後、私は、例の濃紺の着物を手に取った。 帯とかは結構難しそうだけど、なんとかなりそうだ。 そんなことを思いながら、片腕を通した、その時。 ふと、誰かの優しい残り香に、包まれた感じがして……。 何かが頬を伝う感触と、そっと触れた指には、涙。 なぜかはわからないけど、胸が締め付けられるように痛くて、だけどどこか懐かしくて……。 私は、黙って涙を拭った。 .
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