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傷跡
昭和41の春、まだ私が3才になったばかりの頃である。
その日は、保育園から帰って来てみると1才半年下の妹を、いつも預かってくれていた オバさんが家に来ていた。
当時、このオバさんは、48才と言う年齢にもかかわらず、私の妹に『ババ』と呼ばれていたため、私の家族は皆『ババちゃん』と呼んでいた。
このババチャンが来ると、きまって、私にお小遣い『朱いお金(10円)』をくれた。一枚だけなのだが、何せ昭和41年である。それでカップアイスと量り売りの駄菓子が買えたのだ。
当然、その日も『朱いお金』を貰い、小さな手にそれを握り締め、家を走り出た。
目指すは道路を挟んだ真向かいの駄菓子屋だ。
家を飛び出た瞬間、私は宙を舞い
左耳から頬にかけて温かい物が垂れていた
私の記憶は、そこで一旦途切れている。
想像だが、車の急ブレーキの音と私の泣き声で私の家族とババチャンは家から飛び出して来たに違いない。
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