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(まったく父上は、勝手な事を……)
と思いながら栗梅に乗って走っていた。
吹き付ける耳鳴りの様な風音を頭を振って振り払った。
(だいたい私はお慕いしている方がいるのに……。しかし、もし……この見合いがあの方のためになるのなら、迷わず私は嫁ぐだろう……うん?)
ヒヒーンブルブル……
と栗梅が嘶きだ声が聞こえ、ふせていた頭を上げた。
「どうした、栗梅」
桜色の花々が目に入り、思わずため息が溢れた。
「あぁ……着いたのか」
桜の巨木だ。
枝を大きく広げて、空を桜色に染めているようだった。
巴は栗梅を撫でて待つように言いつけると、その木に登って其処から見える村々の営みを眺めた。
(この景色を見ると、さっきあったイライラしていた気持ちが治まる…)
「来て正解だったな春となって、この木を見れば満開の桜が迎えてくれる。この美しさを間近に見れば、なおのこと心が安まる…」
ふーっと、息を吐き胸の内にある、わかだまりを吐き出した。
それでも晴れない心に悲しそうな表情になったまま、景色を眺めていた。
たくさん舞い散る儚い花びらと共に……
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