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「ん?なんだあれ?」
その中でも一際賑わいを見せる人ごみに俺の目線が奪われた。
どこよりも遥かにでかい人ごみ。
そして前列では『親衛隊』と書かれた
ハチマキと法被を着た男たちがいた。
『瑠奈さんにさっさげる!♪』
『『『ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!』』』
一番前列のガタイのいい茶髪オールバックを筆頭に全員が踊りだした。
「なにこれ?気持ちわる・・・・・・」
俺の終わった精神を通して屈折した言葉ではなく、心から直接出た言葉。
・・・・・・本気度が伺える。
「あぁ、瑠奈さんが演説してるのか」
「・・・・・・瑠奈?」
「お前知らないの!?うちにNo.1の成績で入学してきた、容姿端麗、文武両道の女神。西園寺 瑠奈さん。ちなみに俺たちとタメ」
あぁー、そういえば兄貴が一位じゃなかったの?ってずっと思ってたんだけどこの女が一位だったのか。
「しかしなんで1年の1学期、しかも5月からいきなり生徒会選挙に出てるんだ?」
「優秀だからじゃね?優樹もそうだし」
なるほど。
そういえば兄貴は非常に嫌そうだったが、この女はどうだろ?
俺は背伸びして人ごみの向こう側を覗いた。
『ですので私はこの学校がより過ごしやすい空間になるように・・・・・・』
『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』
黒くて長い、枝毛のない美しい髪。
整った顔立ち。
ちょうどいいスタイル。
なるほど、女神と呼ばれる訳だ。
女は必死に演説していた。
そのたびにギャラリーが湧く。
・・・・・・しかしギャラリー達は女の言ってる事なんか聞いてもいない。
女にもそれがわかっているみたいで表情に焦りの色が見えた。
・・・・・・聞いてやれよ。
「・・・・・・ッチ!」
舌打ちを一回。
これを見続けていたらもっとイライラすることになるだろう。
「悟郎。行くぞ」
俺は悟郎を呼んで教室に向かおうとした。
しかしさっきいた場所に悟郎はいなかった。
『『『『ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!』』』』
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」
・・・・・・もはや殴る気にもならなかった。
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