忘れられない1枚

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オレはこの若い女の子の言う通りに今感じるままに彼女の絵を無心で描いた。 こんな依頼は久々だった。 とにかく客の気に入る絵を描く事が最近のオレの仕事。 それでしか食べて行く術はなかったからである。 画家にとって一番つらいのは依頼主の顔色を伺いながら自分の絵の特徴を殺す事である。 売れっ子の画家なら自分のスタイルを貫いても大丈夫。 だがオレはしがない路上画家。 客に媚る事でしか生きていけない。 いつしかオレには芸術家という肩書きが一番似合わない絵描きになってしまっていた。 そんなオレに自由を与えてくれた若い女の客。 オレは今までの鬱憤を晴らす様に絵を描いた。 相当なまでの画家のエネルギーがオレにはたまっていたのか絵は30分もしない間に完成した。 スケッチブックからオレは絵を抜き取る。 そして… 『出来たよ』 もの凄い情熱を込めた絵だったがオレはそれとは裏腹にあっさりした顔に戻って女の客に絵を渡した。 もちろん反応は気になっていた。
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