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わたしもまだ食べ終わってないんですけど…。
呆然とするわたしをよそに、シヲさんは優雅に朝食を啄み始めた。
ていうかこれって……!!
間 接 キ ス
「…人ン家の娘たぶらかしてんじゃねえぞ、シヲ」
朝刊の後ろから、お父さんの低い声が聞こえた。シヲさんは聞こえなかったフリをして、紅茶に角砂糖をひとつかみ溶かして飲みほした。
あっという間に食べ終え、硬直したわたしの口からキャンデーを抜き取って銜えると、シヲさんは淀みない仕草でテーブルを立った。
「じゃ、僕はもうひと眠りするね。
謳子ちゃん、気をつけていってらっしゃい。
道草せずに帰るんだよ?」
そう言うと、シヲさんは天井部屋へと消えていった。
天井部屋は、シヲさんが家に来た時に利用する寝床となっている。
わたしもまだ、入ったことがない。
朝刊の向こう側で、お父さんが深い溜息をついた。
「このくらいのタラシっぷりを、店でも発揮してくれないもんかしらね。
…まあ、タラさなくても十分モテるんだけど。
ほらほら謳子、あんたもさっさと食べちゃわないと遅刻するわよ!」
お父さんに促されて、わたしは再びもぐもぐと口を動かし始めた。
だけど、不思議なことに、
何を食べても桃の味しかしなかった。
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