歓迎された月曜日についての考察

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「えーっ、食べかけのアメを?」 「うん…」 凡人による凡人のための凡人の高校 一年一組、11月7日、月曜日。 小春日和。 時刻は12時45分。 陽射差し込むぽかぽかの教室で わたしは素直ちゃんとお弁当を食べている。 素直ちゃんというのはわたしのお友達で、 真っ直ぐの黒髪が眩しい美少女だ。 男子たちの間では大和撫子の権化と名高いが、 本人は名前通り素直で素朴な普通の女の子である。 今朝の一部始終を話して聞かせると、彼女は切れ長の目を丸くして驚いた。 「なんというか、すごいのね…。 その、シヲさんって……」 危うくたこさんウインナーを落としそうになりながら、素直ちゃんは言った。 「うん。 なんのためらいもなく そういうコトできちゃうんだよね、あの人…」 わたしは溜息と一緒に卵のサンドイッチを飲み込んだ。 「日本人には難しい荒業ね。 職業柄、慣れっこなのかしら? まあでも、良かったじゃない。 大好きなシヲさんと間接キスできて」 「違うんだよ、素直ちゃん…」 「何が違うのよ? どうしてそんな浮かない顔してるの?」 「だってさ、シヲさんの中ではそういう… 間接キ、キ、キ…」 「間接キス?」 「そう、それ。 シヲさんにとっては赤ちゃんにするのもわたしにするのも同じっていうか…。 とにかく、深い意味はないんだよ。 わたしなんかと間接的にちゅうしたってさ……」 「そう言われると… 純粋にキャンデーホルダーが必要だったってだけで、謳子の期待するようなアダルティーな意味は猫の額ほども含まれてなさそうだわ」 「そ、そんなにハッキリ言わなくたって…」 「謳子が言いだしたんじゃない」 「そうだけどぉお…」 「まったく、謳子はシヲさんのことになるとぐじぐじぐじぐじ…。 そんな顔見せられてたら、私のご飯まで不味くなっちゃうわ」 「あ、ごめんね。 わたしのサンドイッチあげようか?」 「…なんでそうなるのよ」 「素直ちゃん、ご飯不味いって言ったから」 「そういう意味じゃないわよ。 でもちょうだい?」 「はい、あーん」 「あーん」 そんな、穏やかな昼休み。 この時のわたしはまだ、幸せだった。
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