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「嫌よっ!
ダメ、じゃなくてイヤ。
わたしはジュースなんかで釣られないのよ」
「あはは…釣ろうとしたわけじゃないと思うけど…。
でも、素直ちゃんにはもっと素敵で優しくて恰好よくて頭脳明晰な人じゃなくちゃね。
わたし、変な虫がつかないように査定するからっ!」
「謳子ったら、まるで私のお父さんじゃない」
「素直はワシが守る!」
「謳子お父さーん!」
二人で一頻り笑った後、素直ちゃんは柏木くんに買ってもらった熱々のミルクティーを一舐めして吐息をついた。
「別に、頭の良し悪しや外見なんか関係ないの。
好きだと思ったら、好きなんだから。
でも、私は………」
そこで言葉は途切れ、ミルクティーから立ち上る湯気で素直ちゃんの横顔は隠されてしまった。
靄の向こうに一瞬だけ覗いたのは
彼女がたまにみせる寂しそうな表情。
その表情の理由を訊けないまま今日まできたけれど
今日こそは、知りたい。
大好きな人の
傷ついた横顔を見るのは、嫌いなの。
人垣に近づくにつれ、徐々に音量の上がる黄色い声に負けないように、わたしも声を張り上げる。
「ねえ、素直ちゃ……」
「あ!やっときた!!
おかえり謳子ちゃん!!」
人垣の中から聞き覚えのある声がわたしの鼓膜を揺らし、全身を怒涛のごとく駆け抜けた。
この人の声をわたしが聞き間違えるはずがない。
けれどこの人が学校にいるはずもない。
「シ…シヲさんっ!?」
「え…っ?」
人垣の真ん中でぴょんぴょん飛び跳ね、満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っているのは、まごうことなきシヲさんだった。
シヲさんの周りを囲んでいた生徒たちの視線が一斉にこちらに集中するのを感じて、わたしは頬が熱くなった。
パーカーにジャージ…
朝会った時のままの恰好だ。
まあ何を着ても絵になる人ではあるのだけれど。
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