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「月曜日ィ!!」
跳ね起きて枕もとの目覚まし時計を鷲掴むと、もう朝の7時。
「はぁあああああ!!」
大遅刻である。
ただちにベッドから転がり出てハンガーにかけられた制服をもぎ取って身に纏う。
一足飛びに鏡台の前に着地して、少し茶色がかった髪を手早く撫でつける。
あとは顔を洗えば準備おっけい。
ふむ。時間がない時、髪が短いと楽ちんだ。
おしゃれしたい盛りの女子としてはアレンジの幅が狭くてちょっと寂しいけど。
でも、髪は絶対伸ばさないんだ。
「よ、ようし!
月曜日の朝ごはんだっ」
異常な鼓動ではち切れそうな心臓を抱え、わたしは部屋を出た。
階段を駆け下りて
キッチンへ通じるドアの前で、呼吸を整える。
覚悟を決めて、ドアノブに手をかけると、唐突にドアが開いて顔面を直撃した。
「あら、起きてたの?
いま起こしに行こうとしてたのに」
「ううう…。
まず娘の顔面に扉を叩きつけたことについて謝ってよお父さんっ!」
「あらやだ謳子ったら。
家ではお母さんって呼んでって言ってるじゃない」
「だってお父さんは男の人だもん!!」
「心は乙女なのよ!!」
「野太い声で言われても説得力ないよ!
そんなことだからお母さんが出ていっちゃったんだよ!!」
「違うもん!
鈴乃さんはそんなことでアタシを嫌いになったりしないもん!!」
「じゃあなんでお母さん帰ってこないのさ!?」
「女装したアタシの顔にちょっとうんざりしただけよ!!」
「それ充分嫌われてるから!!」
「あのー…。
白熱してるとこに水差して申し訳ないんだけど
ちょっといい?」
「「なによう!?」」
勢いづいて振り返ると、そこに女神が立っていた。
否。
女神と見紛うばかりの美人が立っていた。
「シシシシシシヲさんんん…っ」
あまりの後光に、わたしは危うく失明しかけた。
パクパクと口を動かすわたしの前で
ゆるく巻かれた亜麻色の髪がふわりと揺れる。
洗練された八頭身の肢体はだぼっとしたパーカーとジャージに隠れているが、髪の隙間から覗く白い首筋がなまめかしい。
薄紅色の唇には、棒付きキャンデーが銜えられている。
頬に影をつくるほどの豊かな睫毛が震え、唇が柔らかな曲線を描いたかと思うと、キャンデーを落とさない程度に小さく開く。
「おはよ、謳子ちゃん」
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