41人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしまで泣きそうになっていると、キッチンからお父さんの声がした。
「楽しいのはわかるけど
人ン家の娘をからかうのも大概にしなさいよ、シヲ。
謳子も、高校生にもなって嘘泣きに騙されないの。
ほら、二人とも席について!朝ごはん!」
お父さんの号令に、シヲさんは素早く立ち上がって嬉しそうに返事した。
「はーいっ」
「え……え!?
嘘泣き!?え!?」
「謳子ちゃんを騙すのは僕の趣味なんだよー」
唖然とするわたしの背中を押してキッチンに入りながら、シヲさんは鼻歌まじりにそう言った。
「そうですか…」
なんだか朝からどっと疲れてしまった…。
でも、シヲさんの涙が嘘でよかった。本当に。
わたしは安堵の溜息をついてテーブルにつく。
「うわ、まっくろ……」
皿に盛られた黒焦げの目玉焼きを見て、また溜息。
今度の溜息は落胆の溜息。
「ったく、その名演技をちょっとはお店でも発揮してほしいもんだわ。
嘘でもあんたの涙が見られれば、お客さんは大喜びだろうに」
お父さんはコップに牛乳を注ぎながら憮然として言った。
「お客さんの前で泣いたら、惚れられちゃうもん」
シヲさんはパンを千切りながら平然と言った。
シヲさんはわたしにならば惚れられないとでも思っているのだろうか。
「惚れさせるのがあんたの仕事でしょうがぁ……」
呆れたようにお父さんが叫ぶ。
わたしは目玉焼きの焦げを取り除きながら、二人のやりとりを聞いている。
これが私の大好きな、月曜日の朝。
最初のコメントを投稿しよう!