505人が本棚に入れています
本棚に追加
なにかにつまずいて、ハデに転んだ。
というより転がった。
顔からの着地は免れたが、衝撃で老眼鏡がふっ飛んだようだ。
…地味に痛い。
ちょっと擦りむいたし。
「…ってぇ」
後ろから聞こえる呟きに、俺は慌てて振り返る。
取り敢えず、悪いのは俺だし謝らないとだよな。
「す、すいませんでした。俺の不注意でっ…!」
がばっと頭を下げて、謝罪。
勢い余ってか視界がぐらつき、すぐに顔が上げられない。
それをどう見たのか、心配の色を含んだ声が降ってくる。
「…おい、立てるか?」
低くて、少し掠れた感じの甘く甘い、それ。
かすかに胸が鳴った。
あれ?
なんか、ヤバい。
これは覚えがある、感覚。
「ほら、つかまれ」
急速に鮮明になる視界に、差し出された手を捉え、その先の顔を見て弾かれたように後ずさりした。
.
最初のコメントを投稿しよう!