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彼の顔が見るに耐えない、とかでは決してない。
否。
これほどの容姿なら文句なしに美形と言える筈で。
すっと通った鼻筋に、綺麗なアーモンド型の目。
陽の光に反射して輝く銀髪、灰色の双眸。
顎も細くて小顔、とまさに非の打ち所のないイケメンだ。
それを遠ざけたいのは、わき上がってくる“何か”が怖いから。
噛みたい。
その、手を。
軽く食むようにしたり、少し強めに歯を立ててみたい。
形のいい長い指を、飲み込んでしまいたくなった。
鳴り響く警告音。
エマージェンシーエマージェンシー。
危険、触れるべからず。
マズい。
衝動が、抑えられない―――…!!
「なぁ」
さっきより近くに聞こえるテナーが、心地よく鼓膜を震わせるから。
「っ…」
限界だ。
「あぁ?」
「ごめんなさいぃぃい!!!」
ひしゃげた老眼鏡をそのままに、俺は猛ダッシュでその場から駆け出した。
まさに、逃げるように。
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