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そこには、女がいた。
腰まで届く髪は青く、手には涙で作られた槍を持っていたが、不安定な形をしていた。かつて海の色を宿していた双眸は、燃える薔薇よりも紅く燃えていた。
男は動くことができなかった。その黒瞳には、赤と青が混じり合っていた。
女は、躊躇うように空を見上げ、瞳を閉じ、愛惜を振り払うように首を振った。再び開かれた瞳は碧く、掲げた涙の槍は鋭利な刃と化した。
槍は、ゆっくりと引かれ、
そして、
男の体に深々と突き刺さった。
女は、噴き上がる鮮血を浴び、その温もりにかつて確かめ合ったものを感じていた。
男は、女に凭れ掛かるように倒れ、小さく彼女の名を呼んだ。
もう呼んでくれるとは思っていなかった。気付けば、ただ強く抱きしめていた。けれど、抱き返してくれることは永遠になかった。
忘れたはずの涙が、頬を熱く焦がしていく。
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