必然であること

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 剣戟の音が荒々しいリズムを奏でている。  燃える命を彩る旋律は人々を惹きつけ狂わせる魔力を持っていた。聴衆の陶酔したかのような怒号と歓声と悲鳴が沸き起こる。そして、終局の断末魔が響き渡り、一瞬の静寂が訪れる。  ここは、地下闘技場。  戦士達は命を賭け、観客は金を賭ける。非合法ではあったが、この場所には、それを守る者や定める者さえも来ていた。  この死が繰り返される場所で生き続けている者がいた。その男を無敵の王者の名を叫ぶ声が轟く。  ルーザと呼ばれた男は、血錆がこびりついた剣を気だるそうに掲げ、六メートル四方の金網で囲まれたリングに駆け上がった。  挑戦者は、待ち飽きたかのようにあくびをした。その体は、服の上からでも筋肉の隆起がはっきりと分かる。金髪を短く刈り込んでいて、顔に縦横に走る傷痕が歴戦の戦士であることを物語っていた。武器は持っていなかった。素手で戦うのだろう。  ルーザは、剣を構えた。  だが、挑戦者は手をポケットに入れたまま戦闘態勢をとろうとしない。  ゴングが、鳴る。  同時に疾走。
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