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Episode.1 ~朝の天使……~
ある春の朝ー
「神楽さん、起きてますか?」
少年は家主の名前を呼びながら居間に入るとそこには誰もおらず、テーブルの上に目玉焼きと緑茶、そして手紙が置かれていた。
『健児へ。今日は早く学校へ行きます。簡単な食事を作っておきましたので食べてね。
P.S 朝には天使が微笑みますが、決して驚かないようにね。神楽より』
最後の文章には一瞬だけ首を傾げたが、少年は気にせずそのまま食事を開始した。
少年ー鈴木健児は再度、神楽からの手紙に目を通した。
(何が朝から天使だよ。そんなのいるわけ……)健児は非現実的なのは信じていないのだ。そもそも天使は天国にいるのだろう。まだ生きているし、そんなの見たら驚くどころか、怖いだろう。
そう考えていると、後ろの扉が開いて一人の少女が入ってきた。
「……!!?」
健児は慌てて振り向いた。この家には健児と神楽しか住んでいないはずだ。そして今この家には健児一人だけのはず。
すると、そこにはベージュの髪の少女が立っていた。
「おはよう…ございます……」
「あぁ。おはよう……って、違うだろ!!誰だよ!?」
ビクッ健児のツッコミに少女は思わず飛び跳ねた。まぁ、当然だろう。振り向いたらいきなり見知らぬ少女が立っていたのだから。
「ご、ごめんなさい。昨日の内に挨拶を済ませようと思ったんだけど、健児君は寝てたから……」
そういえば昨日はヤケに疲れたから早く寝てたんだっけ?
ふと、健児は少女の姿を見て、「あっ」と声を上げた。
「なっ、何?」
「もしかして、隣のクラスの柊奈々さん?」
奈々と呼ばれた少女は静かに頷いた。知らないはずが無かった。柊奈々は秋桜学園のアイドルなのだ。隣のクラスとは交流が少ないのだが、彼女の事は何故かすぐに耳に入る。それにしても、まさか奈々さんが天使?
「でも、何で奈々さんがウチに?」
健児が訊くと、奈々は一瞬少々戸惑った表情をして、すぐに笑みを浮かべた。
「それは……えっと後で神楽さんから話があるはずだから。あっ、私は先に学校に行くね」
そう言って奈々は部屋を出た。健児は奈々が玄関から出て行くのを確認すると深く溜め息を吐いた。
ー失言だったか……
奈々の表情からその事はすぐに察することが出来た。恐らく、自分の口からは言いにくい理由なのだろう。しかし……
「ありゃ、天使にしてはやりすぎでしょう」
置き手紙の最後の文章を見ながら、一人呟いた。
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